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※2008.4.10追記 「Ahaus」最新号の注文がホームページで可能になりました。

AhasNo6

雑誌「Ahaus」(アーハウス)を知っている方は、モダニズム建築通だ。
青森市で編集・発行されている建築の雑誌。毎回、青森のモダニズム建築に焦点を当てた特集で、通をうならせる。
この雑誌がすごいのは、あか抜けた体裁でありながら、オリジナルの情報で構成されているところである。これまで光が当てられていなかった建築や、知らなかったエピソードを盛り込むことは、労力がかかる。なので、「あか抜けた建築の雑誌」が情報の〈生産〉ではなく、どこかに載っていたあれやこれを見栄えよく組み合わた〈消費〉に向かうのは、しごく当然なのだが、「Ahaus」はそうではない。
「愚直」を言い訳にしない愚直さに、頭が下がる。

1年ぶりとなる第6号の特集は「今和次郎と吉阪隆正 ― 師弟のまなざしと青森の都市・農村・雪」。
特集部分の内容は以下の通り。

寄稿:藤森照信
今和次郎から吉阪隆正へ 受け継がれた「住居学」:倉方俊輔
建築家吉阪隆正を知る
今和次郎のまなざしと吉阪隆正が受け継いだもの
 都市 都市と田園の二重奏を生きる ― 今和次郎の都市論:黒石いずみ
    「弘前市都市建設計画」が提案したこと:安藤洋一・小路紀光
 農村 今和次郎と青森県農村住宅研究:荻原正三
    津軽の農村調査:寺門征男・中村茂樹
    三戸町目時の農村公園:齊藤祐子
    農村地域施設・農村公園の計画・設計:嶋田幸男
 雪  雪国の住宅改善と今和次郎:沼野夏生
    弘前における積雪都市計画:中村茂樹
青森、早稲田建築と私:戸沼幸市
フィールドワークの記録 スケッチと手法
 今純三の考現学 ― 採集と芸術:對馬恵美子
 吉阪隆正が描いた青森
 今和次郎による吉阪邸バラックのスケッチ
超然たる品格 伯父和次郎の思い出:今純一郎
インフォメーション


まず言えるのは、今後、今和次郎と吉阪隆正を研究する際に不可欠の1冊が加わったということ。
今回も地元・青森に徹底してこだわった。それが2人の建築家の、今まで光が当てられていなかった部分を照らし出している。
吉阪さんに関して言えば、「弘前市都市建設計画」や「津軽農村調査」、「三戸町目時の農村公園」の話などは、今回のことがなければ関係者のエピソードが現れてこなかったと思う。これだけの量の写真や図版を集めるのも大変なことだし、今回、初めて目にするものも多い。
「三戸町目時の農村公園」は、齊藤祐子さんがU研の作品集『DISCONT』(丸善)に「むりやり入れて(笑)」(本人談)知られるようになった1977年の作品だが、今回、カラー写真やスケッチで詳しいことが分かる。壊される前に見たかった。

うなるような情報量でありながら、今和次郎、吉阪隆正をあまり知らない方々も惹き付けるような、魅力的な雑誌として成立している。編集の力だと思う。
都市、農村、雪と分けた構成は巧みだし、北田英治さんの冒頭の写真もよい紹介になっている。2人の顔写真を入れたページカットも愛らしい。肉筆スケッチも大きなサイズで多数収録。細やかな筆致が目で追える。
今和次郎と吉阪隆正の著作には、巧みな写真や図版、レイアウトの妙がある。それが、高度な内容にもかかわらず、今も人を惹き付ける力になっている。今回「Ahaus」の特集は、それを引き継いでいる。

特集以外でも、松隈洋さんのコンパクトで密度の高いル・コルビュジエ関連図書紹介、森内忠良さんによる楽しさの伝わってくるチャンディガール案内(またこれでチャンディガールに旅立つ人が増えるだろう)、三沢浩さんの「ルイス・カーンを京都で案内する」などがあって、理解を深める。

まだ更新されていないが、すぐに「Ahaus」のホームページで買えるようになるはず。取り扱い書店はこちら
例えば、九州でも、北陸でも、四国でも、こんな地元発信の建築の雑誌が出るようになったら、私たちはもっと豊かになれるのにと思う。
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