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東京・青山にあるワタリウム美術館で「ブルーノ・タウト展」が始まった(5月27日まで)。
タウト展と言うと、僕の世代には、今は無き池袋のセゾン美術館で1994年に開かれた「ブルーノ・タウト 1880-1938」展が思い出される。
今回の展覧会も、監修者は同じマンフレド・シュパイデル氏である。
展示品のほとんどは、前回の展覧会の際に出版された、「文化バブル」の余光を感じる浩瀚なカタログ(こうした基礎資料を作り得たという点で「前川國男展」はやはり一頭地を抜いていた)に掲載されている。
会場の広さだけで言えば、かつての展覧会に遠く及ばない。
では、ワタリウム美術館を訪れる意味は無いのか?
いや、これが大有りなのだ。

タウト展
一つの訪れる価値は、現代美術館・ワタリウムらしい見せ方へのこだわりである。
展示の内容だけでなく、手法も凝っていて、しかも両者が分かちがたく絡み合って、行かなければ味わえない、観賞体験を生み出している。
例えば、本来は白色の2階壁面には、今回、色とりどりのボーダーで塗られている。
これは、タウトが設計したベルリン郊外のジードルンク(集合住宅)「ファルケンベルク」(1913-14)の色彩を、わざわざ同じ塗料をドイツから取り寄せて再現したものだ。
その入口に使われている菱形の模様を応用して、展示室の床も特注のカーペットで覆われている。
4階には熱海・日向邸(1936)の一部が再現されている。紅の布に、腰掛けられる高さの階段。なんだか、本物より本物らしい。
工芸品は畳に並べられて、タウトが生活とのつながりを強く意識していたことを実感させる。
ワタリウム美術館は、公立の大きなミュージアムでは無いから、小回りが利くという利点があって、それが今回、功を奏していると感じた。

もう一つの大きな訪れる価値は、やはり、実物が持つ情報量である。
例えば、有名な『アルプス建築』(1919)。
シュパイデル氏の力によって今回、オリジナル・ドローイングが海を越えてやってきた。
別にオリジナルの印刷物『アルプス建築』も展示されていて、それ自体、普通に書籍で目にするコピーと色調が異なるのだが、オリジナル・ドローイングは、印象がまったく違う。
印刷物が反射光の色だとしたら、水彩のドローイングは透過光の色彩。
グラスハウス(1914)と直につながって、タウトの構想力がすっと呑み込める。
展覧会期間中、前期と後期で3枚づつ展示される。
じっくりと、何度も向き合いたくなる展覧会だ。

この会期中でなければ体験できないものに、豊富な関連イベントもある。
講演会は以前からワタリウムで開かれていたが、建築ツアーなどで多彩になったのは、2003年に「建築家・伊東忠太の世界展」を開催してからだろう。
この時は実行委員の一員として、企画と構成の一端を担わせてもらった。
建築ツアーは、合計で4,5回行なっただろうか?
午前中の築地本願寺に始まり、大倉集古館、東京都慰霊堂、湯島聖堂、総持寺を1日で巡る。
あまりの人気で、最後はバス2台を連ねて総勢100名近くになった。
展示品の調査から、ツアーや講演会まで、ボランティアで駆けずり回ったことを、会場を巡りながら、懐かしく思い出したのだった。

※写真は、2月4日に講演したマンフレド・シュパイデル氏
 背後に『アルプス建築』のオリジナル・ドローイングが見える
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