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昨年から藤村龍至さんがプロデュースしている日本建築学会の「建築夜学校」。
今年は「建築夜学校2009 データ、プロセス、ローカリティ ― 設計プロセスから地域のアイデンティティを考える」と題して、10月1日と8日の2日間にわたって開かれる。

1日目の昨日、会場の建築会館を訪れると、300席の会場はほぼ満員。イベントとしての動員力は昨年以上だ。基本的な枠組みとしては結構渋い日本建築学会の行事なので、これは藤村さんの力だろう。具体的には問題設定力、パネリストを幅広く集めてくる力、宣伝力のたまものと言っていい。『1995年以後―次世代建築家の語る現代の都市と建築』やこれまでのシンポジウム、展覧会などと同じだ。

10月1日のサブタイトルは「データとプロセスについて考える」。メインタイトルの3単語の1つ目の2つ目の関係、ということになる。
藤村さんの初めの趣旨説明は、こんな感じ。
「今回は情報化と郊外化を考えることで、そこで建築が果たす役割を考えたい。『情報化』も『郊外化』も90年代から言われ尽くされたような単語に思うかもしれない。しかし、情報技術が進んだ現在だからこそ、見えてくるものがあり、新たに考えられるだろう。設計技術の情報化を通して、郊外の空洞化の問題を解決できるのではないかと思う」
「AではなくBである」を重ねていくことは論理的思考の基本。内容は明解だ。議論の出発点としては良い。大学院生の時のレジュメ作りを思い出した。

パネリストには、若手建築家の中山英之さん、言ってみれば中堅建築家の小嶋一浩さん、日建設計の山梨知彦さん。コメンテータに難波和彦さん、『パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則』を書かれた非建築畑の江渡浩一郎さんを配し、共同モデレータに情報社会論の濱野智史さんを迎えている。
中山さん、小嶋さんのスタンスは相変わらずいい。山梨知彦さんのお話は今回、初めて聞いたが、エネルギッシュで引き込まれて収穫大。
江渡浩一郎さん、濱野智史さんのような勘所のいい方に、建築のことを語ってもらう。こうした批評、批評家の新たな導入ということをやっている人は、もしかしたら実作者、学者、編集者を含め、藤村さん以外に今、あまりいないかもしれない。
少し前には例えば、栗田勇さんにしても、多木浩二さんにしてもいたわけで、そのほうが健全で、生産的だ。ただ、いわゆる「文系」ではなく、「理系」の人間が入ってくるところが今までに無く、時代を映した現象だろう。そして、今はそれが実り多いと思う。
「アトリエ派」と「組織設計」を分断せず、建築の内から外を見る眼と外から内への視線を交錯させる。本来、日本建築学会がやるべき行為だろうが、言うは易く・・・なかなか難しい。そうした行為は社会の中の建築の未来につながるのだから、何より学生に聴講してもらうイベントにしたいと思っても、実際には幅広い専門の学生を集めることは難しい。
今回の企画はそうしたことを実現させた。きちんと「日本建築学会」の「夜学校」になっていた。

最後の宣伝力には、事後宣伝も入る。イベントが盛り上がったように事後宣伝することが、次の企画の事前宣伝にも当然、なるからだ。
昨年は「ブロガーの皆さん!」と呼びかけていたような気がしたが、今年はtwitterの画面を後ろのスクリーンに投影し、ハッシュタグは「#yagakkou」でお願いします、と。何と言っても今年はtwitterなのだ。

当日の発言には個々に興味深いものが多かったが、それは誰か別の人が書いてくれるだろうから省略。
ここで長々と当日の枠組みについて書いたのは、もったいないなーという思いもあったからだ。
以前のシンポジウムの後に「いちいち藤村さんの所にマイクが戻るのが良くない」と誰かが書いていたような気がするが、今回、客席で聞いてみるとなるほどと思った。
「濱野さんの議論を翻訳すると…」と言うと、より分かりにくくなるのも相変わらずだった。言葉の下の細かなパラメータを拾うには得手不得手がある。言い回しや、議論の前後関係などによって分かる意味合い。ここでパラメータと言っているのは、そういうことだ。
明解な対立軸への「翻訳」は、議論の出発点には向いている。でも、その後は檻のように感じられてしまうこともある。
特に江渡浩一郎さん、濱野智史さんの、柔らかくも鋭い視点が議論にあまり絡めなかった。もっと話が聞きたかった。これではせっかく、お二方を連れてくる力があったのにもったいない。

「人間をアルゴリズミックに動かす」という言葉が議論の中で出ていた。そう、適確な配置とか役割分担というのがある。自分がモノになったように「驚くほど単純で形式的なルール」を適用するのは難しいことなのだけど時には必要だと感じ、また、直接に明解な成果が出なくても、すべては教育的効果だから意味があるといったセンセイ的自己承認に、うっかり酔ってしまうと嫌だなと思ったりして。
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