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針尾無線塔01

意外と近づけてびっくりしたのが、長崎県佐世保市にある針尾送信所の無線塔。
高圧線の鉄塔のように、足元が金網で囲われているのでは、と勝手に想像していたからだ。

大体ここら辺かなと車を走らせていると、カーブの後に3本のコンクリート塔がすっと現れた。塔は日本海軍佐世保鎮守府隷下の無線送信所として1922年に完成した。3本が正三角形に配置されている。

針尾無線塔02

高さは約135mというが、周りの風景にも塔自身にもスケールを示すものがほとんど無いので、不思議な感じだ。
目の前にあるのだけど、実体感が少ないのである。
なぜここまで形態要素を減らしたのかと思うほどに、その形は抽象的だ。周囲の起伏や緑と無関係で、ものものしい戦争遺産というよりは、合成映像を見ているようだった。
それに、もともと様式的なデザインが無い上に、老朽化もしていないので、いつ建てられたものかも分からない。

針尾無線塔03

まるでデ・キリコの形而上絵画のような・・・と感じてしまうのは、抽象的な形の塔にたまたま夕刻に訪れたという以上に、針尾無線塔が通常の空間と時間の積み重ねの外にある存在に思えるからだろう。
いまだ電波が歪んだ時空をつくり出しているようだ。

針尾無線塔04

その印象は、近づいても変わらない。
農地の中に、それはただ建っている。基壇などが無いので、地面との接点を見ても「見切った」という感じがしない。

針尾無線塔06

分節が無いので、スケールが分からない。ただ、足元には入口が設けられているのが分かり、これだけが人間との接点を示していた。それにしても形はあくまで抽象的。
それにしても、なぜこれほどコンクリートが綺麗なのだろう。手の痕跡を感じさせない冷たい肌は、風化の味わいなどという怠れた賛美を寄せ付けない。

存在が、後の歴史をすべて超越するような構築物が、この時代につくられていたことに驚いた。

針尾無線塔05
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