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鈴木恂建築展 鈴木恂写真展 鈴木恂建築展会場風景

「世界を旅して写真やスケッチで捉えながら、連れ立っていない。
 ひとりで対象を見ているという凄みがある」(植田実)
「どこからでも建築は始まるということを、この住宅に学んだ」(西沢大良)
「僕が初めて会った1970年代は、はっきり言って『不良』でした(笑)。
 優しい先生の顔をかなぐり捨てて、もう一度『不良』になってください」(内藤廣)

以上、2006年2月4日(土)のシンポジウム
「鈴木恂・建築の軌跡1965-2005」の発言から。
建築家の鈴木恂さんが、3月で早稲田大学教授を退任される。
その「退任記念建築週間」の一環として開かれた。
司会は赤坂喜顕さん。パネリストは、鈴木アトリエ出身の、板屋リョクさん、
「都市住宅」の編集長として鈴木さんを発見したと言っていい、植田実さん、
「箱の家」の建築家であり、戦後モダニズム建築にも造詣が深い、難波和彦さん、
吉阪隆正の研究室の先輩・後輩関係でもある、内藤廣さん、
そして、若手建築家の中でモダニズム建築の関心が近年、高まっているが、
その代表者の一人といえる、西沢大良さん。
仕事の都合で少し遅れて到着すると、250席の会場は、ほとんど満席だった。
有名人の姿はもちろん、学生も多く詰めかけている。
鈴木恂さん本人も聴いている。
豪華メンバーによる、スリリングな企画。
単なる賛辞で時間が過ぎるはずもない。
建築家・鈴木恂の個性と時代性をめぐって、熱い言葉が交される。
2時間(+30分延長)の間尺に到底、収まらない。
今後の論議に期待がつながる。

鈴木恂さんの建築は、大胆と繊細を兼ね備えて、格好いい。
時代の潮流に頼っていないから、今も建築として強い。
それは本人にも通じている。
1935年に北海道で生まれ、早稲田大学に進学。
建築家として名声を獲得し始めた頃の吉阪隆正に学び、
1960年代初頭から、欧米の他、
その頃まだ珍しかった中南米や中近東などを旅して帰国。
組織に属することなしに、自らのアトリエを開く。
打ち放しコンクリート仕上げやガラスのスカイライトといった大胆な作風で、
日本の住宅のイメージを書き換え、有名人や横文字職業人の邸宅も多く設計する。
これらが30代の出来事。
1970年代半ば以降、仕事の幅を広げ、
例えば、GAギャラリーやスタジオ・エビス、マニン・ビルなどを手がける。
スタイリッシュな作品でありながら、業界人の軽薄さや、
「巨匠」の鈍重さは微塵も感じられない。
初期の軽やかさは、裏切られていない。
建築家として、こんな理想的なプロフィールはそう無いのではないか。
表層的にステキでありながら、根源的な格好良さがある。
たぶん、今の若者も魅かれるような類のものだ。

ル・コルビュジエが、旅とレプラトニエ先生から、
吉阪隆正が、旅とル・コルビュジエからしか学ばなかったとすれば、
鈴木恂さんは、旅と吉阪隆正からのみ、自分を鍛えたと言えようか。
軽やかに動き、熱く冷たく観察し、咀嚼するまで寝かせるだけの自己抑制を備え、
自分の吐く魅力的な言葉に自分がすがることは無い。
才気にあふれて、時代やスタイルや立場を、軽やかにすり抜け続ける。
表面上の違いを超えた「旅する建築家」の系譜がのぞく。

2月11日(土)まで、早稲田大学小野梓記念館地下2階で「写真展:回廊 KAIRO」、
同1階で「建築展:MAKOTO SUZUKI WORKS」が開催されている(10:00~18:00)。
壁に据えた建築模型や図面、旅に出たくなるような雲のスケッチや写真。
過去を振り返るのではなく、才気を追体験できるような空間だ。
http://www.waseda.jp/jp/event/

11日の15時からは、小野梓記念館地下2階で
鈴木さんの最終講義「空間をめぐって 建築の野生(フィールド)」。
今度は早く行かないと、本当に入れなさそうです。
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