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(前編から続く)

正直言うと、「M2ビル」の葬儀場化に妙な期待を抱いていた。冠婚葬祭は宗教にまつわるものが本物と思い、葬儀専用のホールというのを結婚式教会と同じような存在だと感じかねない私たちがいる。しかし、リノベーションのデザイン処理は見事で、キッチュな光景が展開しているのではという期待は、すっかり裏切られてしまった。

M2ビル(隈研吾,1991)04_倉方撮影

2階の式場は、もとの「M2ホール」。斜めの外形に沿って古典主義の天井が歪められ、肥大化したオーダーがあいまいにそれを支える。仕切り扉のデザインは右に行くほどに電子時代の静かな崩壊に至るマニエリスムで、同じ作者の「RUSTIC」(1991)の前面柱と同様のギミックだ。

M2ビル(隈研吾,1991)05_倉方撮影

部屋全体は透視図法的な軸性を持っている。それが式場に合っている。その印象は、祭壇の高さを調整して作ったり、後補の照明をリング状にしたりといったリノベーションの巧さから来ている。

M2ビル(隈研吾,1991)06_倉方撮影

M2ビルのデザイン要素のうち、「古典主義」のほうは葬儀場と親和性が高い。しかし、もう一方の未来派的あるいはバラック的な「無機質」のほうはどうか? やはり無機物になってしまったことを連想させずにはいられないわけで、都合がよくない。
これに対しては、即物的なデザインの照明にリングを付加するといった、最低限の処理で対応している。おかげで甘からず辛からず、都会的な葬儀空間が成立している。

M2ビル(隈研吾,1991)07_倉方撮影

古典主義のほうも、再解釈が施されている。
上の写真は別の式場の祭壇。あまりにちょうど良いので尋ねたら、外観のイオニア式オーダーに合わせて新たにデザインしたという。ベタからメタに反転したものが、また反転してベタに戻る。なんて知的な遊戯なのだろう…。

M2ビル(隈研吾,1991)09_倉方撮影

「バブル!」という言葉が思わず口をついて出る。3階に置かれたテーブルだ。
トレンディドラマのセットみたい。ここでどんな会議をするのだろうか?
「これからはノリの時代。古臭い会議室じゃ、乗り遅れますよ」とか広告マンから言われて、遊び知らずのサラリーマンがうっかり大枚をはたいてしまったような。

M2ビル(隈研吾,1991)10_倉方撮影

実際は、ユーザと開発者が直接に意見を交換する「M2サロン」として、数年間使われていたらしい。

M2ビル(隈研吾,1991)11_倉方撮影

株式会社メモリードが大理石のテーブルセットを同じ階に配しているので、これも「痛いデザイン」になっていない。
こうやって見ていくと、あるいはマツダの時よりもうまく機能しているのではないか?
葬儀場になって今年で6年。「MAZDA」の「2」として使われていた寿命をすでに上回っている。今の姿が真の姿、と言ってもいいくらいだ。

M2ビル(隈研吾,1991)12_倉方撮影

バブル物件としても、リノベーション物件としてもよく作りこまれていて、90年代、00年代の気分を一気に体感できる。M2ビルは生きている。
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