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ICSカレッジ・オブ・アーツという専門学校で、週に2日、教えている。
つい先日に卒業設計の講評会があった。この学校では初めての試み。
インテリアデコレーション科(2年制)の5名と、
インテリアアーキテクチュア&デザイン科(3年制)の12名が選抜され、
居並ぶチューターと在校生の前で自作を説明し、質問に応えていくという形式だった。

学科の名称から想像できるように、
ICSはプロダクトからインテリア、建築までを範囲としている。
「チューター」という聞きなれない言葉は、教師のことで、
英国国立大学と提携する同校は、基本的に5~8名を一単位として、
90分間を一人の先生がゼミ形式で教える「チュートリアル制」を採っていることから、
このように呼ばれる。
大きく「設計」と「理論」の二本柱からなる教育方針もICSの特徴で、
デザインの修練や実務の知識と同時に、
自分のデザインを説明づける能力にも重きが置かれている。
卒業設計の前には、卒業研究(卒業論文)も書かせる。
僕のように実務にうとい人間も、だから、役に立たなくは無いようだ。
みかんぐみのマニュエル・タルディッツさんと加茂紀和子さん、
若手建築家の柳沢潤さんや根津武彦さんや佐藤勉さん、
彫刻家の古郡弘さん、プロダクト・デザイナーの村澤一晃さん・・・。
講評会には、ICSのチューター陣が勢ぞろいした。

説明が一人3分、質疑応答が7分で、午後早くには終了。
そんな予定は、早々に有名無実になる。
なにせチューターたちが、(僕も含めて)良くしゃべるのだ。
やさしく質問したり、けしかけたり、
時に声を荒げる場面さえも、学生の言いたいことを引き出すためにあった。
真剣な議論が、各人のデザイン姿勢の開陳になっていて、
聞いていて、スリリングだった。

熱気は最後の公開投票で、最高潮に達した。
学生たちの前で、ひとり一票をいずれかの作品に投票する。
得票の多いものが、その場で最優秀賞に決まる。
マイクがまわされ、各チューターが、自らの推薦理由を熱っぽく語る。
学生だけでなく、チューターもジャッジされていることは、言うまでも無い。

振り返ると、学生たちの眼は、食い入るように真剣だった。
みな精いっぱい取り組んだのに、一握りの者だけが選ばれて、
解説する機会が与えられる。
チューターは「先生」ではなく、一人の「デザイナー」として、それらに向き合う。
自分の説明不足をふがいなく思ったり、
確かだと思っていたことが揺らいでも、おかしくはない。
プライドと不安の交錯は、聞いている者たちにも共鳴しただろう。

もともと熱気と礼儀に満ちた学校だが、
欠けていたものがあるとすれば、こうした横断的な批評の場だったかもしれない。
おそらく、学生だけでなく、チューターにとっても同じだろう。
きめ細やかな日常のチュートリアルでは、根本的な姿勢をなかなか語れないし、
それを公開の場でぶつけ合える機会も少ないのだから。
こんな健康な冷酷さも、年に一回くらいは悪くない。
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