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2006.01.22 丘の上の雪
「丘」は生きている。
鋼の馬が往来を行き、鉄道が地中を貫くようになった今でも、
敷地のアップダウンは、その眺望や登坂の労力で人の心に働きかけて、
地図の裏に潜んだ、越えられない壁を生み出す。

NHK文化センター青山校の見学会で松濤を訪れた。
江戸時代、ここには紀州徳川藩の下屋敷があった。
明治初め、土地を佐賀藩鍋島家が購入して、大規模な茶園を経営。
茶の湯の湧く音を松風と潮騒にたとえ、「松濤園」の名を冠した。
大正期以降、茶園は住宅地に変わるが、その名と、高台の地の利は、
江戸の名残りを今に伝える、というわけである。

渋谷東急本店の脇から、坂を上がっていく。
先ほどまでの雑踏が嘘みたいに、景色が変わる。
通りを歩く人はまばら。
整備された通りに時折、外国製高級車が行き交うだけ。
両脇には、頂部だけがのぞく洋館やら、土木のような擁壁やら、
冷たい壁の大理石の輝きやら。
得体の知れない凄みが感じられて、いい。
きっと「黒幕」 ― TVドラマ「けものみち」の平幹二朗のような ― は、
こんなところに棲んでいるのだな、
なんて、庶民の想像力は全開だ。
もと来た方角に足を進めると、がたがたとレベル(土地の)が低くなっていき、
あっという間に陋巷に帰還。
わずかな合間で、旅した気分が味わえる。

見学会の主目的は、白井晟一の設計で1980年に完成した松濤美術館
中央の外部吹抜けに特徴がある。
吹抜けの平面は楕円形で、見下げた底には水面が拡がり、上は空に抜ける。
地下2階のホールから、地下1階と地上1階の展示室、地上2階のサロンまで続いて、
来館者に強く意識される。
この「空虚な楕円筒」が、松濤美術館の最大の展示物と言ってもいい。

松濤美術館内部

吹抜けを前にしたとき、8年ぶりの大雪に見舞われたことが、
「あいにく」なんかでなく、「さいわい」だったと気づいた。
雪で拡散した光の粒子が、内側の吹抜けから、外側の館内へと、
明るさのグラデーションをつくっている。
一つ一つの雪の粉を凝視しようとすると、眼が追いつかない。
それをあきらめると、雪は再び、緩やかな流れに戻る。
雪の不思議さを、「空虚な楕円筒」が照らし出す。
まるで自然現象を観察する、試験管みたいだ。

松濤美術館吹き抜け

午後になってますます勢いを増した雪は、
風にあおられて横へ、上方へと踊り始める。
幼い頃に遊んだスノーグローブが、記憶の底からよみがえる。
内向きの窓にうつるのは、人の内面なのかもしれない。
建築という装置は、さまざまな環境によって働き出す。

「空虚な楕円筒」を再び反転させて、20倍に拡大すれば、六本木ヒルズである。
少し前までのテレビでは下から空へ、そびえる摩天楼を映し出していたが、
最近は空撮で、ヒルズを俯瞰した映像が目に付く。
見えざる丘の上から、地上の陋巷へ。
ドラマのような転落を、待ちかまえているのか。
でも、空調が効いた今の建物だから、
社長室のガラス窓は開かないと思う。
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