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正月休みに気を許し、邦訳が刊行されたばかりの
エイドリアン・フォースター『言葉と建築―語彙体系としてのモダニズム』
(坂牛卓+邊見浩久監訳、鹿島出版会)を読んでいる。

歴史学と美術史を学んだ後に、建築の研究に着手したロンドン大学教授の著作。
第1部では、言葉と建築の関係性を論じて、全体の見取り図を提供し、
第2部では「性格」という18世紀的な用語から、
冒頭で筆者が「モダニズム批評の5つのキーワード」と呼ぶ
「空間」「形態」「デザイン」「構造」「秩序」まで、
18の言葉の用法を歴史的に、批評的に説明する。

現代思想を通り抜けながらも、言葉と建築の関係について、
ニヒリスティック&ペダンチックに論じるのではなく(これはありがち)、
両者のポジティヴな相互作用を、
曲折しながらも論理立った話運びで、解きほぐしている。

単なる用語辞典ではない。
コーリン・ロウの批評は、どうして卓越なのか、
モダニズム批評に秘められたジェンダー区分と、その新たな可能性
動線(circulation:循環)という建築語法の不適切さと適切さ・・・
雑学にも使えそうな、刺激的なネタが詰まっている。

圧縮された論旨と的確なレトリックとで、冗長さが見あたらない。
訳文も巧い。
本書には時折「いかなる~もない」「たったひとつの~」といった言い回しが現れる。
さりげない一文の背後には、どれだけの作業量があるのか…。
言葉の背景と、それに触発された建築家の取組みを知ることは、
実作者の力にもなるに違いない。
読者はただ丁寧に文章を追っていきさえすれば良い。
その努力が裏切られることは無い。
こういう本が読みたかった。ありがとう!

内容に触発されて、脳裏にあった漠然とした思いが析出する。
それを追いかけて、1ページ毎に本から目を離してしまうのと、
つけっ放しのテレビの「芸能人格付けチェック」が面白いのとで、
なかなか読み進められないのだが・・・。

税込5,775円。
卓越した知性による数年、数十年の作業の成果が、
どんな人間もなし得る、たった1日の労働
(東京都の最低賃金=8時間で5712円)で手に入る。
本ほど安価なものは無いと、改めて思う。

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