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大学セミナー・ハウス(東京都八王子市、吉阪隆正+U研究室設計)の
宿泊ユニットのほとんどを2006年3月までに取り壊すという計画が、
(財)大学セミナーハウス(理事長:中島嶺男、館長:荻上紘一)
によって進められています(以下、敬称略)。

大学セミナー・ハウス宿泊棟1 大学セミナー・ハウス宿泊棟2

大学セミナー・ハウスの開館から40年の年月が経ちました。
宿泊ユニットや大学セミナー・ハウス全体の、どこに、どんな価値があるか
(あるいは無いのか)、今後どうしたら良いのか、といったことに関しては、
さまざまな考え方ができます。できて当然だろうと思います。
また、セミナー・ハウスの運営主体は、(財)大学セミナーハウスであり、
財政面・運営面などさまざまな状況を考えた上での最終的な決定権が、
同財団にあることも論をまちません。
一方で開館以来、多くの人間が同館を利用してきたこと、
歴代の館長が、使い続けるという方針をとっていたこと(良いか悪いかは別として)、
建築的・施設的な側面から広く注目を集めてきたことは確かです。
宿泊ユニットのほとんどが近日中に取り壊されるという計画の詳細が、
いま、知れ渡っているとは言えません。
少なくとも、これを知らせることは大事だろうと思います。
もし、関心を持たれましたら、他の関心があるであろう方に、
できるだけ広くお伝えいただければ幸いです。

以下は、本日(2005年12月2日)三宅豊彦(U研究室)からお聞きした内容です。
内容の公開についてはご承諾いただいておりますが、意味のとり違いや、
公開そのものに対する責任は、倉方俊輔が負います。

●大学セミナー・ハウスの宿泊ユニット取り壊しについて
現在、(財)大学セミナー・ハウスは、2006年3月の竣工予定で、
新宿泊棟の建設工事を進めています。
敷地の容積率はすでに使いきっているため、新宿泊棟の完成に伴い、
現在100棟ある宿泊ユニットは、14棟を記念物として残し、
それ以外はすべて消滅します。
これによって開館以来の建築環境は大きく変化することになります。
また、プライバシーが守られないと不評の声が聞かれる長期研修館など、
他の建物についても同様の処理がなされることが予想されます。

宿泊ユニット撤去の背景として、第一に物理的な老朽化が挙げられます。
1965年の開館時に、木造プレファブの宿泊ユニットが100棟(合計定員200人)
つくられました。しかし、メンテナンス不足もあって、
そのうちのいくつかが使用できなくなっています。
加えて、設備の陳腐化もあります。
宿泊ユニットは、中に2つのベッドと机があるだけという簡素なつくりで、
木々の中に分散するように建っています。満足な冷暖房設備もありません。
いくつかのユニットは高い階段を上がる必要もあります。
したがって、現代の標準的な建築に比べると、アプローチが危険、
トイレに行くのに外に出ないといけない、夏暑く冬寒いなどの点が指摘されます。
こうした老朽化・陳腐化にともない、稼働率は低下しています。
現在、30%の稼働率で、冬季の宿泊ユニットの利用はきわめて少ないのが実情です。
当然のことながら、これは財政に悪影響を及ぼします。
これまで抜本的な対策は示されていなかったのですが、
現在の荻上紘一館長は、改革に意欲的で、
「このままでは大学セミナー・ハウスは倒産を待つという状態」、
「分散型の宿泊ユニット自体が現代に受け入れられない」という信念から、
新宿泊棟の建設を決断しました。

工事はすでに始まっています。2006年3月完成、4月からの稼働の予定です。
4人部屋を基本として130名を収容。バストイレ付で冷暖房が完備した
地上2階、地下1階の建物です。
設計にあたったのは、ダイワハウスの関連設計会社。施工は地元の業者です。
検討は2004年10月から始まりました。
U研究室に話があったのは2005年3月でした。
現在の宿泊ユニットおよび環境を残すような提案も行ったのですが、
コストなどの面で折り合いがつかず、現状のような方針となりました。
なお、宿泊ユニットを分散型で建て替えるとすると数億円かかるとのこと。
3年前から募金を始めましたが、全部で数千万円しか集まっていないと言います。

参考ホームページ:(財)大学セミナー・ハウス
 トップページから「研修宿泊棟新築工事進行状況」を見ることができます。

●大学セミナー・ハウス
東京都八王子市の多摩丘陵に位置する教育研修施設。協力会員校や賛助会員などの後援を受けて、財団法人大学セミナー・ハウスが運営を行なう。豊かな自然の中で学生と教員が寝食を共にして学び合い、全人的な接触を図る場として、飯田宗一郎が企画。吉阪隆正をはじめとするU研究室が設計を行ない、1965年に開館。89年までU研究室が一貫して設計に関わった。主な建物として、開館時からの本館、中央セミナー館、セミナー室、宿泊ユニット、67年の講堂、図書館、68年の教師館、70年の長期研修館、75年の大学院セミナー館、78年の国際セミナー館、吉阪の没後89年の開館20周年記念館などがある。建築家・吉阪隆正の代表作といえ、DoCoMoMo20選に選定されている。
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