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2009.01.26
菊地宏さん「大泉の家」の階段

「〈階段〉が面白い要素なのは、そこが建築家に残された最後のデザイン領域になるからで、レンタブル比や壁紙の色について厳しく言う施主でも、階段までは普通口を出さない。でも必要不可欠なものだから、付けないわけにいかない。いわば盲点。そこに建築家の希望を滑り込ませることができる」

『手すり大全』
だから1970年代までの建築は中に入ると意外に発見的だ、という趣旨だったのだが、昨日のオープンハウスで訪れた菊地宏さんの「大泉の家」は、出来たてなのに、金曜の話がよく似合う住宅だった。

敷地は線路沿いの直角三角形。建築面積が28.24平方m、延床面積が77.79平方mと、これは立派な狭小住宅である。
そうした条件に対して、一見すると変わった設計をしているようには見えない。敷地に3層を重ね、斜線制限で切り取った形状。事前に平面図や立面図を見る限り、それくらいにしか思えなかった。
しかし、実際に訪れると広いのだ。さらに、そうした広さ以上の〈使い出〉が一つ一つの階にある。なぜか?
一番の首謀者は階段だ。

「大泉の家」の階段は、側壁に囲われ、クランクしている(バルコニー同様、手すりの工事はまだ始まっていない)。閉鎖された空間の中に、四角い窓から光が注ぐ。近づいていくと、それが外がのぞける高さにあることに気づく。
いったん閉じた空間に入ったあと各階(≒各部屋)に出るのだから、広く感じるのは当然だが、それ以上に、各階の壁に施された色と呼応して効果的だ。色面と意外な角度で - 水平方向にも垂直方向にも - 遭遇する。

たぶん、〈階段効果〉というものがある。例えば、階段は身体の向きを強制的に変えさせる。1階と2階の間の例えば1.41階のようなレベルをつくりだす。それは建物が小さければ小さいほど効いてくる。

極小だからこそ、階段が体感的な意味を帯びるし、機能が特定されない部屋の分化が意味を持つ。色面もこの2つの意味に関わっているが、さまざまなものをつなぐ階段はその心棒として働く。具体的で冷静な判断が、菊地宏さんらしいと思った。

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