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『磯崎新の「都庁」』
James Cotton Blues BandのライブがBillboard Live TOKYOであったので、行ってきた。
どんなミュージシャンか? それはメタボなんてものともしない体躯のヴォーカリストが教えてくれる。
ステージの幕は21時ちょうどに開く。会場はライブが始まるまで、ステージ後方の一面のガラスから夜景を楽しめるようになっているので、正確に言うと「幕を閉じた」だが・・・。
パワフルな2曲で客席を暖めてから、いよいよ「親分」の登場である。
「Grammy award winner! Legendary! Mr. super hot! James Cotton!!」
掛け声に誘われて、御年73歳のジェームス・コットンがのしのしと現れる。ビデオで目にしたファンクの帝王、ジェームス・ブラウンのライブ映像がだぶる。The J.B.'sはオーディエンスを湧かせ、次のように叫んでいた。
「The hardest working man! Mr. Dynamite! James Brown!!」
ジェームス・コットンは1935年生まれだから、ジェームス・ブラウンより2つ年下だ。1990年代半ばに喉を痛めたために今は歌わず、椅子に腰掛けてブルースハープを奏でる。
その存在感に圧倒される。ジェームス・コットンが初めてステージに立ったのは1950年代初頭。ロックンロール誕生の時代から音楽シーンを見続けてきた眼が、深い皺が刻まれた肌の奥で光る。挙げた手を振っているだけでも、音を奏でているようにしか感じられない。
登場から45分間ノンストップで演奏し、アンコールに応えた後、おどけて踊る真似をしながら、満足を残してステージの袖に下がっていった。エンターテイナーである。
バンドのミュージシャンの力量も印象深かった。ジェームス・コットンが動きやすいよう、一番良い所を発揮するように配慮している。「親分」に対する敬意と緊張感が、ライブを作品と呼べるものにしている。

建築も同じではないだろうか。
『磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ』を読み終えた。2001年の『光の教会 安藤忠雄の現場』で鮮烈な執筆家デビューを飾った平松剛さんの待望の新作は、建築家・磯崎新がテーマである。1985年の新都庁舎コンペにおける師匠・丹下健三との闘いが軸だ。とかく小難しく語られがちな、この魅力的な建築家の思想と行動が、これで通覧できるようになった。
発行元は『光の教会―安藤忠雄の現場』から変わったが、装丁は変わらず、和田誠のイラストが表紙を飾っている。親しみやすいが、かえって建築関係者は手控えてしまうかもしれない。
しかし、自分は磯崎新のことを判っていると自信を持って言える人以外、この本は必読だと思う。磯崎新側では青木淳、丹下健三側では古市徹雄を中心に、磯崎新自身も含む多数の関係者に取材し、磯崎新の文章だけでなく、広範な文献が参照されている。たとえ磯崎新が判っていると信じる人であっても、自分の理解を確認できるし、多分いくつかの新たな事実が見つかるはずだ ― 僕に関していうと、磯崎新の最初の奥さんが吉阪隆正の研究室の出身だとは本書を読むまで知らなかった。
読者をその場に居合わさせる描写力が凄い。映画のような構成も見事だ。450ページが一気に読めてしまう。
磯崎新を「親分」と呼んでいるのも良かった。平俗な表現で、一般読者におもねているのではない。建築が一人ではつくれないこと、しかし、作品と呼ぶべきものには「一人」が欠かせないこと。要するに、優れた建築の前提には敬意と緊張感を伴ったプロフェッショナルの共同作業があるということを、建築界の人間は社会に伝えているべきだろう。けれど、そこには力量が必要だ。この本からは、それが自然に伝わる。
いわゆる「親分肌」というのではなく、自然に「親分」と思わせるような器量。それだけで建築はつくれない。だが、それなしに建築はつくれない。建築関係者も思うところが多いのではないか。

しかし、磯崎新は1931年生まれ、ジェームス・コットンよりも、ジェームス・ブラウンよりも年上か・・・。建築界は「legendary」にあふれている。


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