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2008.06.16
伊丹潤さんの建築作品集

伊丹潤さんが作品集『JUN ITAMI―1970-2008 建築と都市
1937年生まれの建築家・伊丹潤さんのことを知ったのは、学校の本棚にあった『伊丹潤建築作品集
しかし、その時の私は誤解をしていた。住宅を主な舞台に、1970年代の反「近代建築」の潮流を独自の個性として結実させた、どちらかというと孤高で寡作な建築家。そんな当時のイメージは、今年に入って改められたのだった。

「アーキファイル」と題して、『日経アーキテクチュア』は毎年3月に年報のような特別増刊号を発行している。その中の「注目の10人」という記事を、昨年、今年と、編集部の森さんと一緒に書いている。建築やインテリア、アーバンデザイン等の分野で、前年に活躍が目立った10人を選出。そのうちの9人を取材し、記事にまとめるという、中々に面白い仕事だ。
その森さんが出された候補者の中に、伊丹潤さんの名を見出し、驚いた。21世紀に入ってから、伊丹さんの大規模なプロジェクトが韓国で続々と竣工している。不覚にも私はそのことを知らなかったのである。
だが、伊丹さんの名と出会ったことは、必然のような気もした。しばらく前から仕事でご一緒している方が、実は伊丹さんの親族だったと昨年知ったこと。教えている専門学校に韓国からの留学生が多くなり、彼ら、彼女らと話すのが本当に楽しいこと。
その場で取材したいと申し入れ、幸いにもそれを受け入れていただいた。

今回の作品集には、先に触れた1993年刊行の作品集の内容 ― 村松貞次郎、三宅理一、梵寿鋼、戸田一郎、宮脇檀の各氏による論考を含む ― や、1987年の『伊丹潤1970‐1987―伊丹潤建築作品集
その仕事の質と量、海外での名声に対して、伊丹さんの紹介は日本の建築ジャーナリズムで十分とはいえない。人を避けられているのかとも考えたが、実際にお会いすると、飾るところが無い、本当にものづくりがお好きなのだと感じさせる若々しさで、気難しさや韜晦とは無縁だった。
掲載用に撮影した私の拙い写真を喜んでいただき、恐縮したのだが、「注目の10人」の誌面ができてみると、従来のモノクロームのポートレートとは違った温和な印象がした。取材時に受けた雰囲気が出ていて、それは良かったかと思う。
カラーといえば、今回の作品集もモノクローム以外の写真を収め、緊張から解き放たれた建築の表情も読者に露にする。伊丹さんはこんなことを話していた。
「スタッフに見せるからにはと、いいスケッチを描こうとしてしまう。それを最近やめようとしています。いいスケッチを描こうとすることが、いかに頭を固くするか、イメージをダメにするか。とにかく紙をいじくって、そのうちに空間を見つけていこうと…。そんな気持ちが、これから5年、10年先のプロジェクトに反映していくのではないか」。

伊丹さんを誤解している人が、もし私以外にいるとすれば、今回の作品集はそれを改める絶好の機会となるだろう。1970年代から伊丹さんを知る方は認識を新たにさせられ、若い人は1990年代以来流行の素材性や自由な形態にこんな使い方もあるのかと刺激が多いに違いない。
巻末の「文献」欄を読んでいたら、末尾が「注目の10人」の記事だった。なんだか嬉しかった。
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