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2010.05.11
建築系ラジオ 5/16 藤原徹平×西村浩 公開収録のお知らせ

5月1日の記事で書いた下関市川棚温泉交流センターは、建築家の西村浩さんと一緒に訪れたのだった。
現地の感想も「声のオープンハウス」として収録したので、いずれ建築系ラジオで配信しようと思うが、話はまだまだ尽きなさそう。設計を担当した隈研吾建築都市設計事務所の藤原徹平さんにお尋ねしたいこともある様子。
そこで急きょ、藤原さんをお招きして5月16日(日)に東京・品川で、対談=建築系ラジオ公開収録を行うことにした。
シリーズ「『建築』を越えろ!」の第2回にあたる。第1回の西村浩さん×山崎亮さんも、デザインに関わるすべての方に聴いてもらいたい内容だ(下記、第3パートは5/16、最終パートは5/23に配信予定)。
「建築」を超えろ! 西村浩×山崎亮「自走力のデザインメソッド」
http://www.architectural-radio.net/archives/transcend/
5/16の公開収録の詳細は下記の通り。
ライブ一発撮りの空気に触れたい方、プロジェクターも少し使うので(声で解説はするけど)より知りたい方、西村さん、藤原さんにお会いしたい方など、ぜひ。
●建築系ラジオ公開収録
「建築」を越えろ! 藤原徹平×西村浩「下関市川棚温泉交流センター」をめぐって
■日時
2010年5月16日(日) 16:00開場 16:15開始 18:00頃終了予定
(その後、18:45頃まで出演者と懇談の時間を持ちます)
■出演者
藤原徹平(建築家、隈研吾建築都市設計事務所設計室長、フジワラテッペイアーキテクツラボ代表)
http://fashionjp.net/highfashiononline/blog/fujiwara/
http://twitter.com/fujiwalabo
西村浩(建築家、株式会社ワークヴィジョンズ代表)
http://www.workvisions.co.jp/wao_content.html
http://twitter.com/wao_nishimura
司会:倉方俊輔(建築史家、西日本工業大学准教授、建築系ラジオ共同主宰)
http://kntkyk.blog24.fc2.com/
http://twitter.com/kurakata
■主旨
括弧付きの「建築」を越えましょう! 人工環境のデザインで為すべきことはまだまだあります。それが今ほど求められている時は無いのですから。
では、何を? どこから? どうやって?
今回は、今年1月にオープンした「下関市川棚温泉交流センター」(山口県下関市川棚温泉、設計:隈研吾建築都市設計事務所)をめぐって考えていきます。同建築は単体の作品ということを越えて、今後の建築への思想を内包させているように思われるからです。
設計を担当した藤原徹平さんをお招きして、背景と意図を伺い、現地を訪れた西村浩さんが質問する形で対話がスタートします。
ライブですので、議論がどこに伸びていくかは予想つきませんが、景観をどう捉えるか、時間のスケールをいかに設定するか、まちの文脈に対応するとはどういうことか、設計と施工のプロセスはどこを握れば良いのか、といったテーマが展開されるのではないでしょうか。「建築」のど真ん中からそれが越えられるとしたら、大変にスリリングなことです。(倉方俊輔)
■場所
品川区東品川1-5-10 丸長倉庫B号室 株式会社ワークヴィジョンズ
(大きな平家の倉庫で、北側に入口があります)
■注意事項
聴講無料、事前申し込みは必要ありませんが、収録の関係上、できるだけ開始時刻前にお越し下さい。場所が分かりづらいので、余裕を持ったご来場をおすすめします。
■主宰
建築系ラジオ
http://www.architectural-radio.net/
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2010.05.10
若松 島時間

北九州の若松がいいのは、古い場所が自然に使われているところだ。
とはいえ、昔に比べれば数は減っているわけで、辛うじて残った建物や町並みの中に、自生するようにして、カフェや雑貨屋が開かれている。
要するに、計画的に整えられた感じがしないのだが、ここで述べておきたいのは、この「計画された感じ」がくせ者ということだ。この香りがすると、例えばレトロ街区の「保存」にしても再開発と同じ印象を与えてしまう。だが、若松はそうではない。自分が発見したと思わせてくれる。
しかも、ここは時間が少し「島」である。北九州市の中でも半島として突き出た位置にあって、小倉や戸畑や八幡といったエリアとは近いのに、遠い。洞海湾を隔て、他のまちを引いた視点で見られる。人々もさらにゆったりとして、まるで能古島から福岡を眺めているような気分。
これは東京の人なんて、たまらないだろう。
総論を書いたので、あとは具体的にご案内。

若松には船がおすすめだ。JR戸畑駅北口から戸畑渡場まで徒歩で3,4分。日中は15分間隔で船が出ている。わずか3分間の船旅だが、新鮮な気分になる。

若戸大橋の下にうもれるように建つのは「杤木ビル」(1920)。福岡県を中心に活躍した建築家の松田昌平(松田平田設計を創業した松田軍平の兄)が設計を手がけた。門司にある「旧門司三井倶楽部」(1921)と同時期にあたる。デザインは小品ながら見どころが多く、キレイになりすぎていない材の佇まいがいい。

このビルの1階に、昨年9月からヘアサロン「MAST HAIR」が入っている。高い天井、ゆったりしたスペース。広い窓の向こうに、陽光を浴びた洞海湾が広がる。
店長の女性にお話を伺うと、もともと若松で美容室を開いていたが、どうしてもこのビルが気に入り、所有者にかけあって入居したとのこと。

落ち着いた内装は可愛くて、格好良くて、男性でもうっとりしてしまう。
明るい静寂に、スタッフが入れたコーヒーの香りが漂い、場所が持つ時の厚さをいっそう思わせるのだ。
(つづく)
[関連]
MAST HAIR
http://masthair.jugem.jp/
北九州市若松区(本町地区)編 - 近代化産業遺産総合リスト - 産業考古学研究室
http://bunhaku.hp.infoseek.co.jp/heritage-wakamatsu.html
※九州の近代建築・近代化遺産と言えばまず参照すべき、庵田綏宇さん(と一応ここのペンネームで書いておきます笑)のサイト。若松地区についても、今では失われた建物も含めリストアップされています。
生き続ける建築10:松田軍平 - INAX REPORT No.176
http://inaxreport.info/no176/feature1.html
小倉航路 - 渡船事業所 - 産業経済局 - 組織 - 北九州市ホームページ
http://www.city.kitakyushu.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=7461
2010.05.03
木屋瀬のまちはミュージアム

まちがミュージアムとは、こういうことかと思った。
北九州市八幡西区の木屋瀬(こやのせ)を訪れて。
建物はもちろんだが、最も書いておきたいことは、
ボランティアガイドの素晴らしさである。
マニュアル化されてはいない。
みなさん自分のスタイルで話しかけ、語る。
それにしても知識が豊富だ。
眺めているだけでは分からないことを教えてくれる。
何を聞いても答えてくれそうだ。
お決まりの解説セットが出てくるのではない。
あくまで主体はこちら側にあるのだ。
考えてみれば、ガイドの方が自分のスタイルを持っていることと、訪れる者が主導権を持っているということは矛盾しない。
ホテルマンにしても何にしても、一流のサービス業とはそういうものではないか?
木屋瀬で感じたのは、真のサービスである。

しかし、これは誰でもできるというものでもないだろう。
まずは多分、好奇心が必要だ。
好奇心、向学心が、生きた知識をつくる。
建物の歴史、細かなつくりから、地域との関係まで、ガイドの方の知識は、専門家である私が聞いても、なるほどと感心した。
それと、プライド。
自分のまちに対する誇りを皆が持っている。
だから、語りかけは静かで柔らかく、力強い。
こうしたまちへのプライドは、木屋瀬のここ10年、20年の取り組みで、より涵養されていったものだと推測する。
それは自分自身への誇りと、重なりあうことだろう。
自分に出自があり、そこにいつかは還るということ。それは人に抑制と、生き生きとした前途への努力を与えるのである。
しかし、こう考えていくと、こうしたことは年輩者に圧倒的に有利だ。
何かのためでない純粋な好奇心・向学心にしても、静かな誇りを持てることも、残念ながら20代や30代ではまるで及ばないだろう。
初めに書いたような、自分のスタイルで語り、間合いを計っていることなど感じさせず、こちらの緊張を解いて我々が自分自身になれるようなサービスは、お年を召された方、あるいはリタイアされた方の得意種目だと言って良い。
このまちは特にそのことを感じさせてくれた。

木屋瀬には郷土資料館もあって、それは充実した展示だったが、やはり分が悪い。「もやいの家」や「旧高崎家住宅(伊馬春部生家)」などは無料で入れ、ボランティアガイドの方の説明を聞きながら、歴史と地理を自分の身体で発見する喜びに浸れるのである。
建築とは何て豊饒なものかと思った。
ヨーロッパを訪れた際、ふらっと訪れたまちに良好な美術館があったり、刺激的なイベントに遭遇したりという経験をして、若かったこともあって、豊かだとはこういうことかと、いたく感銘を覚えた。
木屋瀬を訪れ、無料で最上級のサービスを受けて、そんな経験を思い出した。
声高に宣伝しているものだけが優れているのではない。普通にそれぞれが高い質を持っていて、訪れるのを待っているといった「無駄」とも言える状態。日本も、特に大都市以外は、そうなりつつあるし、そうならないといけないのではないか?
「まちがミュージアム」というのは、その時に実現性が高い思想だろう。
仕事(子育てや勤務)を終え、故郷に腰を落ち着けた年輩者が、日々新しい人々に会って精神と肉体の若々しさを保ちながら、誇りを感じて生きられるような。
子供から年輩者までが、この日本にまわりきれないほどの歴史と地理の豊かさがあることを知り、そこから次の仕事や趣味を産み出せるような。
そのように使い続けられていくことによって、建築やまちを保存・保全できるような。
もちろん、こうしたことは直接に利益を生み出しはしない。
意欲に応じた補助が必要だろうし、今もそうなっているに違いない。
その補助は、医療保険や教育や建設に対する支出に比べた時、膨大になるだろうか?
自然環境から前近代、近代、戦後にまで目を向ければ、かなりのまちがミュージアムになりえるだろう。極端に言えば、何もつくらなくったってそれは可能で、効果は絶大だ。

2010.05.01
川棚温泉交流センターは訪れるべきだ

ゴールデンウィークが始まった。
もし時間に余裕がある方がいたら、特に九州北部や中国地方西部の建築学生・建築関係者は、山口県下関市の「川棚温泉交流センター」(隈研吾建築都市設計事務所、2010)を訪れた方がいい。
特に、そこのあなた! 「また隈事務所かぁ」とか「これ系の形ねー」と雑誌を見て思っている貴方にこそ、おすすめなのである。
なぜ、おすすめなのか?
本来は、事細かにその理由を語るべきだろうが、これに関してはそうしたくない気もする。あまり種明かしをしたくない。ふらっと行って、各自が楽しんで発見してもらいたいと思わせる建築だ。

主要なことを一つだけ書くと、スケールがいい。
建物だけを写した写真だと分かりづらいが、規模はすぐ隣まで迫る2階建ての民家と連続している。同時に、ディテールを見せない形態は遠くの山並みと近しく、近景と遠景がつながる。これは町に寄贈された新たな効果だ。
このようなスケールの的確性は、あらかじめ見極めようと思っていたポイントではある。しかし、その他に、予期していなかった意外性が3つも存在した。これは驚いた。どれも付加的なギミックでなく、この建築の中心思想に関係している。
見逃さないよう、しかし、種明かしにならないように、注意点だけを・・。
1. 外壁の仕上げを注視して、建物全体の形が、最初の印象ほど複雑かどうか良く観察してほしい
2. 館内の床仕上げにまんべんなく目を配り、それがどんな効果を発揮しているか考えてほしい
3. 正面から向かって右手に外部から地下に降りるような階段があるが、これが何のために設けられているか明らかにしてほしい(分からなかったら交流センターの方に尋ねること)
全体的な感慨を記そう。
この建築に触れて思い出したのは(唐突かもしれないが)三仏寺投入堂のことだった。実際に現地に行くと、この堂を時間をかけて構築したというより、役小角が「えいやっ」と一瞬にして投げ入れたという伝説のほうを信じたくなる。それは周囲の風景とあまりに適合しているのと、ものとしての思想が細部まですべて一貫しているからだろう。
この建築も同じだ。構築的というより、一瞬でつくられたように思える。
何がオカルトめいた話をしているかのようだが、ここ川棚は古くは青龍の伝説から、近くは音楽家のコルトーがやってきてあの島が欲しいと言ったという太古の伝説のような事実まである土地なのだから、その川棚温泉交流センター(コルトーセンター)が一瞬にしてできたとしても驚くに足りないだろう・・。
少し中沢新一もどきの冗談が過ぎたようだ。閑話休題。

実際には、この建築が反構築的な「一瞬」の印象を与えるのは、先ほどの投入堂と同様に、周囲との適合と、分業的でない思想の一貫性のためだろう。
後者について言えば、行き渡っているのは、いわゆる意匠や計画の厳密さではない。何がこの建築の支柱であるかという価値観である。それが信じられない位に隅々まで一貫している。それが共有されて、その中で皆が仕事をしている。
この建築がローコストであるのは目に明らかだ。なのにうまくできている。しかし、そのうまくできている、というのは、建築家のデザインを無理に押し通し「作品」を作り上げ、ユーザも施工者も泣いている、というのではない。ローコストの中で、何に重きを置き、つくりとして何が重要になるか。その価値観が共有され、各自が自分の持ち分で創意工夫を発揮している。そう感じられる。
要は、ハッピーな建築なのだ。
もちろん、その裏には価値観を共有させるだけの、設計者の自由かつ熱心なコミュニケーションがあったことは容易に創造できる。でなくては、こんなものは建たない。
建築家とは、そうした共有可能な価値観をセッティングしてあげる職業なのだ。そんな設計者の声が聞こえてきそうだ。
繰り返しになるが、これは今年の見るべき建築だ。
ものそのものが思想であり、建築の「完成度」という概念を書き換え、バラックと土木をつないでいる。
旅をしていて、集落にふらっと入ったら、それが細部から全体までよく組み立てられていて、歴史を経ているのに(だからこそ)一瞬でできたような質を持っていて、足早に発見を楽しみながら、頭はああでもないこうでもないと、ぐるぐる回る。そんな幸せを持っている。
だからあなたも、ここまで旅をすべきだと思う。

[行き方]
川棚温泉交流センター/下関市烏山民俗資料館の開館時間は午前10時~午後8時(入館は午後7時30分まで)、12/31-1/3休館
JR山陰本線「川棚温泉駅」から約2km
川棚温泉駅までは下関駅から約40分。ただし本数が多くないので、列車の時刻を要確認。
名物は「瓦そば」。車の方は5kmほど離れた県道35号沿いの天然記念物「川棚のクスの森」(樹齢約千年)も一見の価値あり。
隣の隣の駅である「梅ヶ峠」下車約1.3kmには、川棚温泉交流センターと同じ藤原徹平氏が担当した「安養寺木造阿弥陀如来坐像収蔵施設」(隈研吾建築都市設計事務所、2002)があり、こちらもおすすめ。
[関連]
川棚温泉交流センター公式サイト
http://kawatana.com/kawatananomori/
建築系ラジオ 5/16 藤原徹平×西村浩 公開収録のお知らせ
http://kntkyk.blog24.fc2.com/blog-entry-343.html
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