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2009.08.20
磯崎新ばり炭坑遺産

九州に来ている。
渡邉研司さんと、渡邉研の椙山さん、志賀さんと福岡空港で落ち合い、まずは《旧志免鉱業所竪坑櫓》へ。
車を走らせていると、目の前にそれは唐突に現れた。

予想以上に大きかった。
そして、正方形の窓の整列具合、上部の張り出しや、全体のプロポーションに、知的な操作を感じてしまう。
磯崎新の初期作品と言われたら、そうかと思うくらいに、建築的だった。不気味でクール。岩田学園や大分県立図書館みたいに。
最初からいいものに出会った。
《旧志免鉱業所竪坑櫓》がどんな成り立ちかは、こちら。
「見守り保存」という表現が面白い。

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2009.03.09
磯崎新の感染力
2009.02.06
磯崎新「カザルスホール」と都市

[前々エントリ、前エントリから続く]
10+1のウェブサイトの「特集|書物・言葉・眼差し──2008年の記憶|アンケート」で書いた本のうち、平松剛『磯崎新の「都庁」』は他の方も挙げていた。
そんな磯崎新の手による、数少ない東京の建築が無くなるかもしれない。
お茶の水の「カザルスホール」は、1987年に主婦の友社によって建設され、2002年に日本大学の手に渡った。同館が2010年3月で閉館することを、2009年2月4日付の朝日新聞は伝えている。記事によれば「建物自体を残すかどうかは未定だが、敷地は大学の施設として使う予定」という。

この「カザルスホール」(完成時の雑誌表記は「お茶の水スクエア」)。磯崎建築として語られることはほとんどないが、いかにも彼らしい。前から好きな建築である。
もともとここにはウィリアム・ヴォーリズの設計で1925年に完成した「主婦の友社社屋」が建っていた。現在の建物は、その外形と一部のデザインを踏襲して、磯崎アトリエが設計したものだ。1980-90年代に流行った、いわゆる「イメージ保存」の一つ。しかし、その効果をこれほど生かした建築が、他にあるだろうか。

エンターブラチュアを貫通する正方形の窓や端部の廃墟的な処理、誇張された曲線…。どこまでが元々の資質で - ヴォーリズ建築には確かに様式主義末期の分裂と、親しみやすい素人っぽさがある -、どこからが磯崎新の個性 - 例えば「つくばセンタービル」(1983)のような - か判別しがたい効果に、デザインの狙いがある。
竣工時の説明によれば、当初は旧建物の再利用を計画していたが、実施設計の直前になって解体復元に変更された。したがって、プランは以前のものが踏襲されたという。
建設は、金銭や期日といった必然によって、偶然のように要素が決まり、その拘束条件がもとになって次の要素が決まり・・・しかしできあがってしまうと、それはひと息に与えられたもののように錯誤されてしまう。絵画にしても、小説にしても、「作品」という概念はそういうものだ。

磯崎はそうした「錯誤」を意識的に活用する。そのことが、ここでは見えやすくなっている。新たな設計者にとっていかんともしがたい細部を持ちながら、確固とした「保存」のよりどころもない「イメージ保存」という枠組みを利用して、過去に戻るのでも白紙からの創造でもなく、事後的な効果を狙って設計を行っている。

1月28日に東京工業大学で開かれた公開シンポジウム「アーキテクチャと思考の場所」でも、磯崎から自分は「都市デザイナー」として設計しているという発言があったが、磯崎は理性で乗り越えられず、事後的に意味が生成されるものとして「都市」を見た。
前々エントリの言葉を再び使えば、「都市」とは「過去の意図や自然条件の織物を目の前に拡げられて、その事後的にしか読み解けない(それだけに豊か)な有り様」なのである。
2009.02.05
2008年に印象に残った書物・展覧会

[前エントリから続く]そんな石川初さんをはじめ、五十嵐太郎さんや今村創平さんなどの18名にとって、2008年に印象に残った書籍や展覧会は何だったのか?
10+1のウェブサイトに「特集|書物・言葉・眼差し──2008年の記憶|アンケート」という記事が掲載されている。
私が挙げたのは次の4冊+3展。詳しくはウェブサイトでのほうで。
・平松剛『磯崎新の「都庁」』(文藝春秋)[以前の記事はこちら]
・菊竹清訓『代謝建築論 か・かた・かたち』(彰国社)
・『INAX REPORT』(INAX)
・『A haus』(A haus編集部)
・《村野藤吾 建築とインテリア》展(松下電工汐留ミュージアム)
・《アーキニアリング・デザイン》展2008(日本建築学会)
・《氾濫するイメージ ── 反芸術以後の印刷メディアと美術1960's─70's》展(うらわ美術館)
2009.01.30
「アーキテクチャと思考の場所」の感想などを

※関連記事として、磯崎新「カザルスホール」と都市 を書きました(2009.02.06追記)
1月28日に東京工業大学で公開シンポジウム「アーキテクチャと思考の場所」があった。開始20分前に着くと、600人収容の講堂はすでに満席。
この豪華メンバーなのだから無理はない。
司会が東浩紀、登壇者が磯崎新、浅田彰、宮台真司(思想系の内容なので今日は「さん」は無し)、それに若手として、昨年の単著『ゼロ年代の想像力


入口でもらった資料を開けると、「LIVE ROUND ABOUT JOURNAL」のチラシも挟み込まれていた。宣伝は着実に行われているようだ。
そういえば、主宰者の一人である藤村龍至の名も今回のシンポジウムの中で登場していた。東浩紀は次のように言った(メモ書きをもとにしているので発言通りではない)。
「決定するときに、作者と市場以外に、すべてのログを取るという第3の方法があるのではないか。なんでそう思ったかというと、藤村龍至さんに話を伺うことがあって、建築を設計していく時の生成プロセスを全部残すことでクライアントとのコミュニケーションをつくっていく。藤村さんは気づいていないけれど、これはネット的なやり方だと」
ただ、反論めいた話になってしまうが、この東浩紀の「超線形設計プロセス」の理解は違うのではないか。東浩紀のまとめはやはり的確で、聞いていてすごい - 浅田彰ほどではないにしても - と思ったのだが、2つだけおかしさに気づいた点があって、一つは宇野常寛のプレゼンの後のまとめ。もう一つはここだった。
だって、設計を依頼された建築家がクライアントとのコミュニケーションをつくっていくのは当然であって、「超線形設計プロセス」のそうした側面は副産物ないしは方便である。ちょうど、磯崎新にマイクが渡った時に彼が「富士見カントリークラブハウス」について「私はゴルフが分からないから『?』の平面形にしたんです」と言うと、聴衆が分かった気になってしまうのと同じようなものだ。
ログをとって説明可能にする、というのはたいしたことではない。繰り返し考えることで、建築的に使える環境的要素を見出すというのが本当のところで、その点でたいして建築というものは変わらないわけだ。

さて、シンポジウム全体の流れはというと、東による趣旨説明の後、濱野と宇野がプレゼンを行い、磯崎・浅田・宮台がそれに応じる形でディスカッションが始まり、予定された3時間が来て「切断」された。
全体の感想としては、登壇者の応答関係が成立していないシンポジウムだった。暗示的な瞬き合いのようなものはあるにせよ、明示的にはまったくと言っていいくらいに無かった。
ただ、それは決して悪いことではない。各登壇者の姿勢のショーケースとして機能していた。その意味で『思想地図』的。1500円(というのは本の値段で、このシンポジウムは同書と東京工業大学世界文明センターの宣伝なので無料)で、どこからでも読めてお得なのだった。
もう1つ全体の感想を挙げるとしたら、“東+宇野+濱野” と “磯崎+浅田+宮台” とは、相互に違う世界について語っていた。ほとんど梅田望夫の『ウェブ進化論
もちろん、“磯崎+浅田+宮台”がネット世界について知らないわけではないのだが、どちらを真の《現在》とみるかが別々なのだ。別のいい方をすれば、制限されていないもの(ネット)と制限されているもの(リアル)の間にどの程度の交通、相互参照関係が成り立つか。“磯崎+浅田+宮台”はそれを「弱」とし、“東+宇野+濱野”は「強」とみなす。これはコンピュータに接した世代云々だけでなく、年齢、つまり自己が社会的に保証されているかどうかにも起因するだろう。
先ほど「切断」と記したのは、濱野智史のプレゼンが磯崎新の「プロセス・プランニング論」(『空間へ
そこから濱野は「いかに暴走しないような設計を行うのか、それを現実の世界に適用していくかを考えたい」と述べた。そのとき「建築」と「社会設計」と「情報環境」が関連する必要があるのだとも。
明日の「LIVE ROUND ABOUT JOURNAL」(INAXギャラリー、11:00-20:00)で、その先が垣間見えるのかもしれない。
2008.07.14
2人のジェームスと『磯崎新の「都庁」』

James Cotton Blues BandのライブがBillboard Live TOKYOであったので、行ってきた。
どんなミュージシャンか? それはメタボなんてものともしない体躯のヴォーカリストが教えてくれる。
ステージの幕は21時ちょうどに開く。会場はライブが始まるまで、ステージ後方の一面のガラスから夜景を楽しめるようになっているので、正確に言うと「幕を閉じた」だが・・・。
パワフルな2曲で客席を暖めてから、いよいよ「親分」の登場である。
「Grammy award winner! Legendary! Mr. super hot! James Cotton!!」
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